スペシャルトーク
- 工藤 雄 さん
- 株式会社フェニックス
事業本部長 兼 営業部長
- 上西 源和 さん
- 合同会社ビバ&サンガ
副スタジアム長
- 西岡 大輔 先生
- 京都医健専門学校
教務部 教務課長
近年、様々なジャンルのプロスポーツチームが設立され、
国内でも
「スポーツ・アリーナ改革」が注目を集めるなど、スポーツ業界
は今、変革期にあります。
今後、スポーツが新たなビジネス市場として、
ファンを生み出し、
地域を盛り上げる「地域創生」の
原動力として期待されています。
スポーツは、これからどのように発展していくのか
気になるところです。
そこで、スポーツ業界で活躍するお二人に、仕事の魅力、
地域創生へのロードマップ、将来への展望を伺いました。
―スポーツはエンターテイメント!
B.LEAGUEに所属するプロバスケットボールチーム。愛知県の東三河地域と静岡県の遠州地域が本拠地。「三遠地域を笑顔で活力のある街に!」を経営理念として掲げ、イベントや子どもたちとの交流などに精力的に参加し、地域の活性化に貢献。スポーツを通じて地域と共に成長し合うことをめざしている。
by KYOCERA
収容人数21,600人を有する府内唯一の専用球技場。観客席の最前列より2メートル前へ張り出す屋根が特徴で、ピッチとスタンドとはわずか1.2メートルの高低差。京都サンガF.C.のホームスタジアムとして活用されるほか、サッカーやラグビーなどの国際試合が可能。スポーツをはじめ、音楽や地域振興の催し物など、地域のにぎわいを創出する拠点としての期待も大きい。
- 西岡
- 本日は、スポーツ業界を代表するお二人にお越しいただき、仕事のやりがい、醍醐味、今後のスポーツ業界の展望について、様々な角度からお話を伺いたいと思います。
まず、工藤さん、今日は愛知県・静岡県の三遠地域から京都府亀岡市までお越しいただきありがとうございます。このスタジアムを見て、率直にどう感じましたか?
- 工藤
- 圧倒されました!最新の設備に、好立地…素晴らしいですね。
このような優れたスタジアムを拠点とし、地元で活動できるのは、プロスポーツチームにとって理想的だと思います。
私が運営に関わっているプロバスケットボールチーム「三遠ネオフェニックス」(以下、フェニックス)は、まだホームアリーナがありません。将来的には、専用アリーナを持ちたいので、今日はスタジアムの活用方法や、今後どのように発展させていくのか、上西さんに伺いたいと思っています。
- 西岡
- 早速、このスタジアムの特徴を運営に携わっている上西さんにお伺いしましょう。
- 上西
- 当スタジアムの一番の特徴は、観客と選手が一体となれる工夫が施されているところです。
ピッチとスタンド最前列との高低差が1.2mと近く、選手の息づかいが観客席まで直に伝わり、大型モニターが2台設置された臨場感溢れる観戦環境です。
活用方法はたくさんあり、各種スポーツのほか、広い敷地を利用したマルシェの開催、スポーツ好きにはたまらないスタジアムウェディング。さらには、フィットネススタジオやVRスタジオといった併設施設を活用し、あらゆるジャンルのイベントを実施できるのが魅力です。
- 西岡
- スタジアムが、スポーツ観戦だけでなく、地元を盛り上げる中心となっているんですね。
工藤さん、フェニックスの試合も、地元のファンはたくさん集まりますか?
- 工藤
- もちろん、多くの方が観戦に来てくださるため、大いに盛り上がります。
バスケットの試合は、派手な音響や照明、躍動感のある応援と、試合のライブ感が醍醐味。これまでバスケットボールを観たことがなかった人たちにも、「すっかりファンになった」と、喜んでくれる方が増えてきました。
ただ課題は、地元の人たちにもっと来場していただくこと。一度でも試合に足を運んでもらうために、運営側として様々な企画を考え、ファンをひきつけ、飽きさせない工夫を仕掛けていかなければなりません。
- 西岡
- ファンをひきつける…難しい課題ですね。
何か具体的に取り組んでいることはありますか?
- 工藤
- 例えば、試合直前の選手入場の際、派手な演出をして観客を沸かせたり、「キッズデー」を設けて、空き地に「はたらく車」の展示をしたりと、幅広い世代に楽しんで会場まで足を運んでいただけるような、多様な取り組みをしています。
また、選手と市民との交流も大切にしていて、選手たちが小学校に行って子どもたちと触れ合ったり、地元の産業を手伝ったりと、試合以外の活動にも積極的です。
このように、地域活動を通して、まずはフェニックスを知ってもらうことを大切にしています。
- 三遠ネオフェニックス
- B.LEAGUEに所属するプロバスケットボールチーム。愛知県の東三河地域と静岡県の遠州地域が本拠地。「三遠地域を笑顔で活力のある街に!」を経営理念として掲げ、イベントや子どもたちとの交流などに精力的に参加し、地域の活性化に貢献。スポーツを通じて地域と共に成長し合うことをめざしている。
- サンガスタジアム
by KYOCERA - 収容人数21,600人を有する府内唯一の専用球技場。観客席の最前列より2メートル前へ張り出す屋根が特徴で、ピッチとスタンドとはわずか1.2メートルの高低差。京都サンガF.C.のホームスタジアムとして活用されるほか、サッカーやラグビーなどの国際試合が可能。スポーツをはじめ、音楽や地域振興の催し物など、地域のにぎわいを創出する拠点としての期待も大きい。
- 上西
- 工藤さんが課題だとご指摘された集客に関しては、当スタジアムでも同じです。
試合やイベントのある日は来場者で賑わいますが、問題は何も催しがない日。敷地も広いだけに、寂しい空間になってしまいます。
そんな時、人気があるのがスタジアムに併設したスポーツクライミングや3×3バスケットコート。いつも幅広い年齢の方が利用していて、笑い声が響き合い、エネルギッシュな雰囲気に溢れています。
- 西岡
- なるほど。工夫次第で人が集まり、活気が生まれるんですね。スタジアムができたのはスタートラインに立ったにすぎず、次はいかに活用していくかが重要ですね。
上西さん、スタジアムの来場者を増やすためにどのような工夫をしていますか?
- 上西
- やはり、面白いイベントを企画することですね。
例えば、スタジアムの裏側に潜入できる「スタジアムツアー」は、普段見ることができない場所を見学できるとあって、人気のあるイベントです。スタジアムツアーの夜バージョン「ナイトツアー」も好評でした。ちょっとホラー的な要素や意外性があって、参加者から「おもしろかった!」と声をかけてもらえたのがとても嬉しかったですね。
- 西岡
- 斬新な企画ですね!スタジアムも、スポーツチームも、
「エンターテイメントを発信する拠点」になっているわけですね。
〈三遠ネオフェニックス〉
地域の小学生と触れ合う
交流イベントを実施
〈サンガスタジアム by KYOCERA〉
広いスタジアム内で挙式ができる「スタジアムウェディング」
―スポーツビジネスの原点にあるもの
〈三遠ネオフェニックス〉
「三遠ネオフェニックス」が積極的に取り組むホームタウン活動。
- 西岡
- 次は、お二人の業務について詳しく教えてください。
- 工藤
- 私の主な業務は、フェニックスと企業とのパートナーシップを結ぶことです。例えば、2020年9月、当チームは株式会社マンダム様とトップスポンサー契約を結びました。この契約で、フィリピンの人気選手サーディ・ラベナ選手を迎えることができたんです。
ラベナ選手の獲得により、フェニックスファンは日本人だけでなく、三遠地域に住むフィリピンをはじめとした東南アジア出身の方々にまで広がっています。
どの企業と、どのようなパートナーシップを結ぶかで、ファン層も広がり、地元貢献にも大いに役立っていると感じています。
- 西岡
- それは興味深いですね。これまでは、スポーツ団体を支援する「企業」と、企業の広告塔である「スポーツ団体」の間で結ばれる「スポンサーシップ」が主流でした。でも、いまはスポーツ団体、企業、地域などがお互い助け合う「パートナーシップ」が注目されていますね。
- 工藤
-
そうですね。プロスポーツチームは、より地域への貢献を考えた“シンボル”としての役割を担うようになってきていると感じます。私の業務は、「いかに地域へ貢献できるか」が基本にあり、どのように実現していくかプランを立て、実行に移すことです。
〈三遠ネオフェニックス〉
「三遠ネオフェニックス」が積極的に取り組むホームタウン活動。
- 西岡
- 工藤さんのように、「プロスポーツチームの運営に関わりたい」と希望する学生も多いです。パートナーシップを結ぶ仕事はとても将来性を感じます。
上西さんはどのような業務をされていますか?
- 上西
- イベントの企画をはじめ、イベント主催者への提案、設備の手配、イベント当日の進行など、主催者側をサポートするのが主な仕事です。また、このスタジアムはまだ新しいため、様々なルールを決めていくのも業務の一環です。
- 西岡
- スタジアム運営の影の立役者…というわけですね。
イベントのトラブルなどにも対応しているのですか?
- 上西
- もちろん私の仕事です。ハプニングがあっても、対応策をあらかじめ想定し、準備しておくことが大切です。こうした対処法は、勉強で培われるものではなく、現場での経験の蓄積が土台となります。数多くの現場で実践を重ねていかなければなりません。
- 西岡
- 二人の言葉からプロの心意気を感じます。
それでは、仕事の魅力をそれぞれ教えてください。
- 工藤
- この仕事は、本当に多くの人たちとの出会いがあります。それもスポーツ業界に限らず、地元の会社の社長、市長、市民の方々…この仕事をしていなければ、決して出会えることのなかった人たちと一緒に、フェニックスという共通点を軸に仕事をしていくことができる。これが実に面白いのです。
オリジナリティがあり、クリエイティブな部分がこの仕事の魅力だと感じています。
- 上西
- スタジアム運営とはいえ、向き合っているのは人です。イベントの主催者の方々と綿密に打ち合わせを重ね、スタッフと密に連携をとる。当日は緊張感を持ちながら、スタジアム内を駆け回る。汗を流して頑張った分、成功したら、「君のおかげだよ。ありがとう!」と、心から感謝してもらえる。この瞬間が格別で、仕事の一番の魅力だと思います。
- 西岡
- 大変だからこそ味わえる仕事の魅力。きっとお二人のような仕事に就きたいと希望する学生も多いと思います。
―企業と教育の「産学連携」で学生を育成
〈サンガスタジアム by KYOCERA〉
国内初のスポーツクライミング国際基準を満たした屋内型クライミングジム
- 西岡
- お二人の仕事内容を聞いていると、「現場力」の大切さを痛感しました。実は「現場力」をつけるために、本校でも様々な取り組みを行っています。その一つが、産学連携教育です。
企業と連携して、学生が現場に行かせていただき、実習や研修を行うカリキュラムで、プロの現場で学べることは実に多く、実践力を磨き、社会に出てからの即戦力となるよう現場経験を積んでもらいます。
- 上西
- 私は医健の卒業生ですが、この産学連携教育は素晴らしい経験でした。イベントの発想力、臨機応変な対応力など、現場を経験したからこそ身に付く力が絶対あるんです。社会に出る前に、プロの仕事をリアルに感じられたことは今でも財産です。
- 工藤
-
とても興味深いカリキュラムですね。現場での即戦力を身に付けて社会に出てくるのは、採用する立場としても大変頼もしいです。
学生時代は、知識を深め、視野を広げるとき。自分がスポーツのどの部分に関わりたいのか、向いているのかなど、自分と向き合う時期です。スポーツには、プレイヤーとしての活躍だけでなく、プロモーター、トレーナー、運営など、多彩なステージがあります。スポーツを楽しみたいならプレイヤーとしてスポーツをしたらいい。でも、スポーツで楽しみたいなら私の仕事は向いていると思います。
そうした意味でも、医健さんが取り組む産学連携教育は、学生の目線に立ったとても充実した内容だと思います。〈サンガスタジアム by KYOCERA〉
国内初のスポーツクライミング国際基準を満たした屋内型クライミングジム
- 西岡
- お二人にお伺いしたいのですが、スポーツ業界で活躍するために、身に付けておいた方がいいと思うスキルは何でしょう?
- 上西
- 最も大切なスキルは「コミュニケーション能力」だと思います。最新の技術が搭載されたスタジアムだけに、技術力も必要なのですが、どれだけテクノロジーが進化しても、最終的には人と人とのつながりだと感じることが多いです。イベントの成功には、主催者、来場者、スタッフ…多くの人との綿密なやり取りがあってこそ。コミュニケーション能力は不可欠な要素ですね。
- 工藤
- 私も同じく、誰とでも臆することなく話せる「コミュニケーション能力」は求められると思います。パートナーシップを結ぶのも、選手や地域の人たちとの交流も、原点は人です。つながり合うことでビジネスが広がっていきます。コミュニケーション能力は強みになりますから、学生の間に身に付けておくといいと思います。
- 西岡
- その通りですね。学校でも、学生同士、教員と学生など、多くの人とのつながりがありますが、その一つひとつの大切さを伝えるよう心がけています。
―スポーツが鍵を握る地域創生の未来
- 西岡
- 本校では、2022年4月よりスポーツとテクノロジーを組み合わせた「スポーツテック」の分野を幅広く学べる、新しい教育カリキュラムを新設します。これからのスポーツ業界を盛り上げていくため、進化し続けるテクノロジーの知識に加え、マネジメント力や英語力も4年間をかけて学んでいきます。そして、お二人が活躍する現場でも通用する人材を輩出できればと思っています。
そこで伺いたいのが、目まぐるしく変化しているスポーツ業界の将来性です。今後スポーツ業界はどのように発展していくとお考えでしょうか?
- 工藤
-
地域を活性化させること、つまり「地域創生」を原点とした活動になっていくでしょう。特に、地域にプロスポーツチームやスタジアムなどがあれば、そこが軸となって、地元産業、教育、福祉など、スポーツと直接かかわりのなかったジャンルにまで大きな影響を与え、さらなる発展を促す存在になっていきます。
以前、ファンの方からかけられた、忘れられない言葉があるんです。それは、「フェニックスのおかげで、家族の会話が増えた」ということ。食卓で、自然とフェニックスが話題にのぼる…こんな素晴らしいことはありません。これが、私どもが目標にしていること。地域に根差すプロスポーツチームの真の姿。つまり、「スポーツはまちづくり」なんです。
- 西岡
- 「スポーツはまちづくり」とは、新しい概念ですね。
- 工藤
- 地域のスポーツアクティビティを企画したり、スポーツチームと一緒に健康づくりをしたりと、地域の特色を活かしつつ、スポーツを軸にした「まちづくり」が各地で広がっていくと思います。スポーツを通じた活動は、住民同士の結びつきを強めていきますから、「スポーツのまち」として、新たな街の魅力となるでしょう。
- 上西
- 私も同感です。いま、国内でも「スタジアム・アリーナ改革」が注目を集めているように、スタジアムを中心とした地域の活性化はますます広がっていくと思います。このサンガスタジアムも、健康イベントや地元のスポーツ大会などを企画し、「健康まちづくり」の拠点になるようめざしています。地域の方に役立ててもらうことで、経済的な発展につながっていくと考えています。
- 西岡
-
とても力強いお言葉です。やはり、非常に大きな可能性や将来性を感じますね!
それでは最後に、お二人の今後の展望を教えてください。
- 工藤
- スポーツを通じて地域に根差し、「まちづくり」にチャレンジしていくことです。その一つが、将来的に専用アリーナを持つこと。それも、非常時には防災機能を備えた施設です。アリーナを持つことで、より一層地域の活性化につながるのだと、上西さんのお話から学びました。あらゆる知恵を駆使し、模索しながら進めていきたいと思います。
もう一つは、地域貢献です。「フェニックスがあるから、この街が好きだ」と思ってもらえるよう、スポーツによって地域の課題を解決していくことです。フェニックスが地域のシンボルとなるように、チャレンジを続けていきたいと思います。
- 上西
- 私も同じく、これからもっと、地域の皆さんのためにスタジアムを盛り上げていきたいです。
今後は、スタジアム内に企業主導型保育園ができますし、健康づくりのためのイベントや講習会もどんどん企画します。地域の方にとって、憩いの場であり、スポーツビジネスの拠点にもなる、新しいスタジアムをめざしていきます。
- 西岡
- お二人の仕事への真摯な姿勢、高いプロ意識、何より、地域への思いを感じました。スポーツを「する」人を支えるということに留まらず、スポーツを「観る」人やその周りの人さえも支える人となること。ここに新しいビジョンを見出した方も多いことでしょう。
私自身も学生と一緒に励み、テクノロジーはもちろん、これからのスポーツ業界から必要とされる学生の教育に努めていきたいと思います。この業界をめざし、入学を希望する方も、大いに勇気づけられたことと思います。本日はありがとうございました。
取材・撮影:サンガスタジアム by KYOCERA にて